日本郵政グループ、上場後に未来はあるのだろうか?
ZUU online 2015/9/22 10:10
 21世紀最大のIPOとも言われている郵政グループ3社のIPOが目前に迫っている。政府が株式の100%を保有している日本郵政 <6178> と、その金融子会社のゆうちょ銀行 <7182> 、かんぽ生命保険 <7181> の3社同時上場となり、市場からの調達資金は1兆円を超える見通しだ。
 これは1998年のNTTドコモ <9437> の約2兆1000億円以来となる大型案件だ。
IPOは投資家にとってどんなメリット、デメリットがあるのか
 なぜIPOがこれほどまでに投資家の注目を集めるのだろう。本当にIPOは投資家にとってメリットがあるのだろうか。まずはIPOの魅力を確認する。一般的にIPOを実施する企業は新興企業など歴史の浅い会社が多く、今後の業務急拡大が期待できる。
 したがって、上場後の株価が大きく上昇する銘柄が多い。さらに、銘柄によっては上場後、数カ月の間に株式分割を行う企業が多いことに加え、公募価格(売出価格)は割安に設定される場合が多い。
 
 要するに今後の成長が期待できる企業の株を割安に入手することが可能ということになる。また、取得にあたっては手数料がかからないというメリットもある。
 その一方でIPOならではの注意点があることも事実だ。上場直後は需給関係が安定せずに株価が一方通行となりぶれやすい。株価が居所を落ち着けるまでには数カ月を要することになる可能性も頭に入れておきたい。
 また、最近では上場した直後から株価が下がり続けるケースが頻繁に見られる。ソーシャルゲームを手がけるgumi <3903> の場合はそればかりか業績の下方修正、情報開示の不手際などが続き、投資家からひんしゅくを買ったばかりか、「上場ゴール」という造語まで生まれた。
 このようにIPOのなかには投資家に対する背信行為ともいえるものすらあることは頭に入れておきたい。
 
 とはいえ今回の上場には名目がある。政府は、日本郵政グループ3社の株式上場で得る売却収益から4兆円を東日本大震災の復興財源に充てるとしている。新規上場時を含め、3回ほどに分けて株式を売り出す方針を公言しているため、売り出しの初回で失敗は許されないのだ。
■申し込みまでのスケジュール
 さて、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険のグループ3社の上場までのスケジュールを確認しておこう。
 3社の上場予定日は11月4日だ。日本郵政は3億9600万株、ゆうちょ銀行は3億2995万3800株、かんぽ生命保険は5280万株が売り出される予定だ。
 上場までに証券投資への専門性が高い機関投資家などからの意見をもとに仮条件が設定され、投資家に提示される。今回の場合、仮条件決定は3社とも10月7日が予定されている。投資家はこの仮条件を見て、その範囲内で希望価格を提示することになる。その後、投資家からの需要を把握し、市場動向にあった発行価格が決定されることになる。
 日本郵政のブックビルディング期間は10月8日から10月23日、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険のブックビルディング期間は10月8日から10月16日だ。
 こうした手続きを経て売出価格が決定されることになるが、決定日は日本郵政が10月26日、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険が10月19日の予定だ。申込受付は日本郵政が10月27日から30日、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険が10月20日から10月23日の予定だ。
 日本郵政グループ3社の同時上場は投資家の間で大きな注目を集めていることは事実だ。テレビCMや新聞広告、さらに証券会社でも熱心なセールスが行われている。投資家のなかにはかつてNTTの上場で利益を手にした時の成功体験を思い起こす人もいるようだ。
 国有企業の民営化の成功例を英国に求めるエコノミストも多い。企業の生産性が低下し英国病と皮肉られ長期停滞していた経済を建て直すきっかけとなったのが、当時のサッチャー首相が取り組んだ国有企業の民営化だ。
 ブリティッシュ・テレコム(BT)やブリティッシュ・エアウェイズ(BA)といった国有企業が次々と民営化された。英国病にむしばまれた企業の生産性の向上を促し、株式を保有することとなった個人の新たな中間層がサッチャー政権を支えたことを例に挙げ、このIPOが日本経済の脱却と新たな中間層を育てる試金石となるだろうという見方もある。
 しかし、今回のIPOを英国の国有企業の民営化になぞらえることには無理がある。そもそも今度のIPOの動機が必ずしも前向きでは無いのだ。上場によって得られた資金は復興財源の穴埋めに使われることになるのだ。 
■金融2社の収益にも陰り
 16年3月期は日本郵政とゆうちょ銀は連結純利益が減る見通しだ。かんぽ生命も3%の増益にとどまる見込みで、グループ収益のほとんどを占める金融2社の収益には陰りが見えている。
 また、全国一律の郵便のユニバーサルサービスを維持するために、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は、年1兆円近い手数料を郵便局に払っている。その負担は重く、郵便、銀行・保険窓口の3事業で年間2631億円にのぼる赤字を、グループ全体で穴埋めしているという厳しい現実がある。
 IPOのタイミングに合わせるかのように与党・自民党の郵政事業に関する特命委員会では郵便貯金の預入限度額を、現行の1000万円から3000万円に引き上げる提言をまとめた。
 かんぽ生命保険の契約限度額も現在の最大1300万円から2000万円に引き上げられることが予想される。当然ながら民間金融機関などからは民業圧迫との批判の声があがっているが、民間と限られたパイを取り合うビジネスモデルしか描けないのだ。
 話題の郵政3社のIPOは話題性が高く、個人投資家の多くが強い関心を持っている。購入を検討している投資家も多い。
 しかし、冷静に考えればこれだけ収益性の低い企業の株を買うことが本当に正しい投資行動かはなはだ疑問だ。先の例からも郵便貯金やかんぽ生命保険の限度額を引き上げ、民業を圧迫するという将来ビジョンしか描けない企業に成長性が期待できるだろうか。(ZUU online 編集部)